御手洗はこちらです。

便所みたいなもんですね。

痛み

折れた鉛筆を削る時に、いつも思うのだ。
これは人だと。
疲弊し、磨耗し、折れた芯を削り出す。削るたびに短くなる。書けば書くほど丸くなり、また削られて尖りだし、最後は無になる。
だとするならばやはり人生とは、その握り締めた鉛筆で何を描くか、なのではないかと。

「この絵さぁ、どうよ」

隣に座る貴女は読んでいる本から半目ほど逸らして私の絵を覗き込むと眉をひそめた。

「私には芸術なんてわからんと何時も言ってる。でも、そうだね。好きだよ、わからんけどね」

「嬉しくないな、それ」

「なに、褒められたいの?」

「そうじゃないけどさぁ」

私の絵は抽象的だ。
私自身、何を描いているのかわからない時がある。
朝食べたパンに塗られたジャムの味を覚えているだろうか。
毎日何を塗っているか、なんていちいち覚えてもないだろうが、何か塗って食べているのは間違いないだろう。私の抽象とはそんな類の抽象だ。
でも、一つだけ言えるのは、これは私自身である、と言うことだ。
私は私を描き続けてる。
画家になりたい訳じゃないし、さして頻繁に描く訳でもない。
ただ、私は私を残したい、それだけだ。

「描くことに意味があるのか、完成させることに意味があるのか、人に伝えることに意味があるのか」

「さぁねぇ、私にはわかんないかなぁ。でも、あんたが描いた絵ならなんだって好きだよ」

「だからぁ、そうじゃなくってさぁ」

丸くなった鉛筆を尖らせながら、私の口もこれくらい尖れば刺せるかな、などと意味不明な供述をしてみた。
嬉しいけれど、嬉しくない。
私は絵の感想を求めているのに、貴女は何時も、あんたが好きなら私も好きだ、なんて言ってくるから、怒るに怒れないし、そんな私の事も分かっていてわざとそんな事を言う。
私と言う個人を全然見てくれてないのに、私と言う存在しか見ていないから、なんだか根のない雑草を根気よく抜き続けているみたいだ。
これも私の一部なのに、一部なら全部好きだなんて、あまりにもあんまりでしょう。

「たまに描いてるけどさ、作家にでもなりたいの?」

「別に?私は私を残したいだけ。私は永遠に思春期なの」

「あー、わからなくないな、その気持ち」

「ぶっちゃけ絵じゃなくても良いんだ。私を残せさえすればそれで」

「ふぅん」

さほど興味も無い、と言った具合だ。
あぁ、貴女にとって私ってそんなものなのね。
なんてセンチメンタルな気分に浸りたくもなる。
しかしながら、これでも私の親友なので、おそらく的確な言葉をポロリとこぼしてくれるのだろう。

「私の絵っぽい?これ」

「うん、お前っぽい」

「じゃあいいや、完成」

「いつも思うが、いいのかそれで」

「私っぽいんでしょ?ならそれで完成、これは私の一部なの、それが伝わればいいのよ」

「わかんないけど、そう言うところまで含めてあんたっぽいわ」

「はは、ありがと。それ一番嬉しいかも」

絵の右下に自分のサインを書いた。
多分、次見た時には自分でも何が描かれているのかわからないだろう。
でもきっとそれでいいんだろうな、なんて思うのだ。
鉛筆だけで描かれた私の絵は、上手くもなければ綺麗でもない。
そんな絵を描いては残していく。

「タイトルあんの、それ」

「ないよ?なんで」

「いや、思っただけ」

「そんなもんだよ、絵なんて」

「そんなもんか」

貴女は、ふん、と鼻を鳴らすと

「じゃ、タイトルつけよっか」

と読んでいた本を閉じた。

「んー、タイトルか、あんまり考えた事ないなぁ」

「テーマとかないの?これ、なんか波みたいな感じだけど」

「テーマか、テーマはあるよ。人生とは」

「深いな、それ」

「私の心は深海なのよ」

「ロマンチストだな」

「見たくない現実しかないから、消去法よね」

「だったらそれは浪漫じゃなくて、逃避行だな」

「行末に愛があれば良いんだけどねぇ」

そんな軽口で不思議なポケット叩いたら幾分の興味が増えたようで、スケッチブックをひっくり返しながら遊ぶ貴女はまるで猫のようだ。
私の絵で、遊ぶ貴女を、見て遊ぶ。
字余り。
あぁ、ペットが欲しいな。
でも目の前にデカいペットがいるしいいか。
そんな無駄な思考をするには十分な時間をかけて絵で遊んでいた貴女は唐突に呟いた。

「これはさ、あんた自身の一部なんだよね」

「うん、そうだね」

「じゃ、先に言っとく。ごめんなさい」

言うが早いか、そのページを破り捨てた。

「わぁお」

「怒らないんだ」

「うん、全然」

驚きこそすれ、怒りは湧いてこない。

「どう、痛い?」

「うん、痛いね」

私は確かに痛みを感じている。
不思議なもので、心が痛いなんてことはなく、何故か太ももを抓られたような痛みが走った。
もしかしたら、その絵は私の太ももなのかもなぁ。

「じゃ、これはここまで含めて『痛み』ってタイトルにしよっか」

「なるほどね、ありがとう」

「ははは、人の絵破ってありがとうなんて言われるとは思ってなかったわ。どういたしまして」

そう笑いながら散らばった絵を集める姿を見て、貴女の方が余程芸術家肌だよ、と思った事は言わないでおこう。

 

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一応真面目に考えて書いたんですけど、やっぱり面白くはなりませんね。

これから

人に見せる事

を意識して書いてみようと思います。

過去の作品群は間違いなくその時思った事やただの妄想を文字にしただけなので。

作品と向き合う

と言う話を芸術家の妹としたのですがかなり掘り下げた会話が出来て大変参考になりました。

これからも定期的に行いたいと思います。

しかしながらあれですね、一度完成させたら

完成させる

と言う事そのものは本当に簡単になりました。ただし、面白いかどうかは別問題ですが。

私は作家になりたい訳では一切ありませんが

自己紹介は上手に纏めたい

とは思っております。

そして、それで

面白い人だな

と思っていただけたならそれ以上はないでしょう。

以上です。