御手洗はこちらです。

便所みたいなもんですね。

滑稽

夜更け、今日も私は一人公園のブランコに揺られながら考えていた。平々凡々なこの人生に、どれ程の価値があるのか、思いつめていた。

子もいなければ、妻もいない、何処から見ても冴えない中年のこの私の人生には、何があるのか。この歳になると全く笑えない、可愛げもない悩みを、私はただ一人思いつめていた。


「こんばんは」

青年が一人。

不審者にでも、間違われたのかもしれない。

私は精一杯明るく答えた。

「こんばんは。何か用かい、薬でも分けてくれるのか。生憎私には見たい夢も捨てたい今も無いんだ、他を当たってくれ」

「いえいえ、そんな気は一切ありませんよ。ただ、これを差し上げようと思いまして」

結婚式場のシールが貼られた白い箱を私に手渡してきた。

「毒でも入っているのか?それなら遠慮なくいただこう」

「残念ながら、毒も麻薬も入ってません。中身は普通のショートケーキです」

ブランコに腰掛けると話を続けてた。

「最近、良くここにいらっしゃるでしょう。今日は結婚式がありましてね、これもまた巡り合わせかと思い、一つお話を」

「それは恥ずかしい所を見られてしまっていたな。誰かに見られてるだなんて、気にしたこともなかった」

正直、少し鬱陶しいと思った。

「何か悩みでも、おありですか」

ご注文は以上でお揃いですか?と分かりきったことを聞くウェイトレスと同じ声音だ。

「悩みか、そうだな。私は悩んでいる、考えている」

「そうですか」

彼はそれ以上、何も聞くことは無かった。

だから私も何も話さなかった。

公園に咲く桜はもう殆どが散っていた。その姿は何となく今の自分に似ているな、などとどうでもいい事を考えた。

「この公園、思い出の場所なんですよ」

「へぇ、それは良い思い出なのかな、それとも悪い思い出か」

「良くも悪くも、思い出ですね。ここで、彼女に二度目の別れを告げられました」

「それはとても青春だな。二度目、という所がまたそそる」

「そうでしょうか。でもそうですね、甘酸っぱい大切な思い出です」

「私にはそんな経験がないから、偉そうな事は言えないが、私にもそんな思い出の一つでもあれば、ここには居なかったのかもな」

「でも、僕はここに貴方が居てくれて良かったな、と思いますよ」

私はその言葉に、少しだけ苛立った。

お前に何がわかる、と心の中の自分が叫ぶ。

「そうか、それは良かった」

「でもきっと、貴方は僕から言われても嬉しくはないのでしょうね。それは、よく分かってるつもりではいますよ」

「分かっているなら、なぜわざわざ」

「きっと貴方は何も分かってないからですよ」

心が割れる音がした。

「あぁ、そうだ。私は何もわからない。自分の生きる意味も、明日が来る理由も、私には何もわからない。思春期のような悩みだと馬鹿にしてくれて構わない、もう馬鹿にされることすらないんだ。私の人生には、何もない」

彼はただただ、微笑んでいた。

ただしそれは、慈愛に満ちた表情、では無かったし、蔑んだ嘲笑とも違っていた。

「まだ、あるじゃないですか」

「何があると言うんだ、何もないがあるとでも言いたいのか。それはただの言葉遊びの茶番だ」

「そう叫ぶ貴方が、まだここにいるじゃないですか」

気付かされた、と言うよりは、一本取られた、と言う感覚が近いのかもしれない。

「しかしこれは答えにならない。私は答えが欲しい、意味が欲しい」

「申し訳ありませんが、僕は答えは持っていません。ですが、今日貴方がここに居なければ声をかける事はなかったでしょう。僕が声をかける事がなければ貴方は誰にも叫ぶ事なく、ここで悩み続けたのではありませんか」

「だが叫んでも何も解決はしない」

「そうでしょう、解決するのは僕ではなく、貴方ですから」

「だが私には手段が無い」

「少なくともここで悩む事では何もありませんよ」

「だが……」

何も言えなくなった。

ようやく気がついたのだ、自分の愚かさに。

そんな私を見て、彼は微笑んでいた。

「……あぁ、そうか、そうだな。すまない、そしてありがとう」

「いえいえ、こちらこそ。またこの公園での思い出増えました」

「それは良い思い出なのかな、それとも悪い思い出か」

「良くも悪くも、思い出ですね」

私は大きな声で笑った。

自分でも驚く位大きな声で、鳥が何匹か飛んで行った。

そんな行き過ぎる鳥を見て

「鳥になりたい」

なんて、人生で初めて思ったのだった。

「ありがとう。何もわからなかったし、何も解決はしなかったが、少なくともここには無い事だけはわかったよ」

「でも、ここに居なければ僕は貴方に声をかける事はありませんでした。だから、ここにもきっと、意味があったんですよ」

「あぁ、そうだな。しかし、もう無いな。そろそろ出発の時間らしい。汽笛を鳴らしたのは、君だな」

「そうなれて、光栄です。これもまた人生なのでしょう。出会えて良かったです、それでは、さようなら」

彼はそれだけ言うと、ふらりと消えた。

自分自身が作った幻かとも思ったが、自分の中にそんな自分が居たならここで悩んでなど居なかったか、と一人苦笑した。

彼がくれたショートケーキを口に詰め込み、私はその公園を後にした。

二度と来る事はないだろう。

だが、私はこの味を一生忘れる事はない。

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最初はこれタイトルを「無意味の意味」にしようと思ってたんですが、あまりにもチープすぎて辞めました。そして、そんなタイトルではあまりにもチープ過ぎるなと言うところまで含めて滑稽と言った感じだったので滑稽に。

意味の無い事をしている、と言う事実ってしている最中は全然気がつかなかったりしますよね。

でも、それに気がついた時

なんて時間を無駄にしてしまったんだ

と思うか

あぁ、この無意味に意味を持たせよう

と行動するか

って雲泥の差ですよね、これは多分誰しも、うんうん、と頷いてくれると思う。

そんな感じの話を書こうと思ったんだと思います、このテキストデータを編集しようと思ったら最終更新2014年だったので、当時これをどんな思いで書こうとしたかは全く思い出せないんですけど、一つ言えるのは

僕、あの頃からなんにも成長してねぇ!!!

と言う事ですね。